週刊新潮
 2008.7.3

(評)大森 望
  /評論家
 人類の大半が死滅した近未来。文明は崩壊し、おそらくは核の冬による厳しい寒波がアメリカを襲う。わずかな生存者は乏しい食料を奪い合い、生きるためなら人肉さえ口にする。この荒廃した大地を、父親と幼い息子の二人連れが、とぼとぼと歩いてゆく ・・・・・。
 その道中を描く 『ザ・ロード』 の筋立ては、シンプルそのもの。終末SFとしてはありふれた設定で、斬新なアイデアも、意外なひねりもない。分量もわずか邦訳で270ページ。にもかかわらず、本書は昨年のピュリッツァー賞に輝き、ペーパーバック版を含め、全米で170万部突破の大ベストセラーとなった。                              
 その秘密を知るには、とにかくページを開いて読んでみること。荒削りな力強さと詩的な繊細さが奇妙に同居する独特の文体が、冒頭から読者をつかみ、要所要所に挿入されている父と子の対話が強く心に訴えかけてくる。たとえば ─
   
    一つ訊いていい? と少年はいった。
    ああ。いいよ。
    
               ぼくたちは死ぬの?
                いつかはな。今はまだだ。
                やっぱり南へ行くんだよね。
                そうだ。
               南のほうが暖かいから。
               うん。
               そんならいい。 
               なにがいいんだ。
               なんでもない。とにかくいいの。(中略)
               ねえ訊いてもいい?
               ああ、いいよ。
               ぼくが死んだらどうする?
               パパも死にたくなるだろうな。
               一緒にいられるように?
               そう。一緒にいられるように。
               わかった。

 今日一日を生き延びられるかどうかもわからない、絶望的な状況。それでも二人は歩きつづける。やがて訪れる旅の結末は、いつまでも深く胸に残る。今年の海外文学ベストワンに推したい、父子小説の傑作だ。
    
 

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