Life in the Freezer(1993)

氷のワンダーランド・南極

ライフ三部作に続くライフ・シリーズの第1作目。南極とその近辺の自然界で生息する生きものたちの生態を6部シリーズで紹介する。アッテンボローはプレゼンターを務め、製作はAlastair Fothergill、製作班にMartha Holmes、撮影班にDoug AllanとMichael Degruy、音楽にGeorge Fentonと後年のThe Blue Planetの陣営が顔を揃えている。
日本では、1995年にNHKの地球ロマンで「氷のワンダーランド・南極」として放送された。ナレーターは小川真司。

1.The Bountiful Sea
2.The Ice Retreats
3.The Race to Breed
4.The Door Closes
5.The Big Freeze
6.Footstep in the Snow

この番組が日本で放送されたとき、わたしは大学生だったが、第1部を録画し損ねた思い出がある。後に国内でVHSが発売されたが、DVD化はされていない。
ナレーションは低年齢向けという感じだが、後年NHKで放送された「地球ふしぎ大自然」や現在の「ダーウィンが来た」と異なり、変に低俗化されていない。子ども向けのTV番組としては、BBC作品の長所を活かした良心的なものと言える。もちろん、大人が見ても楽しめる。

1.The Bountiful Sea
  発見!豊かな生き物たち

アッテンボロー氏は南極の弩真ん中にいる。見渡す限りの氷の世界である。南極大陸の面積はアメリカの1.5倍で、ヨーロッパよりも広い。人口は年間800人ほどで、世界で最も少ない。地球上のどの場所よりも寒冷だが、豊かな世界でもある。
南極を象徴する鳥はペンギンである。100万羽以上ものペンギンが零下70度の極寒で身を寄せ合っている。ユキドリも飛来し、雪を掘って巣を作る。世界中のアザラシの半数が南極生まれである。
南極は周囲を海で囲まれた大陸で、世界中の淡水の4分の3を占める氷で覆われている。太陽の光が反射してしまうため、氷が解けず、100万年にわたって暑さ3マイルもの氷床が形成された。その氷床の下にヨーロッパアルプス並みの山脈が隠されている。
氷河は大陸の縁に向かって流れ、海になだれ落ちる。ランバート氷河は全長25マイルにおよび、1年に3分の2マイル移動する。もし、崩れ落ちたら、ボートがひっくり返ってしまうだろう。
海に流れた氷河は氷山となる。氷山は風や波によって少しずつ形を変える。海面上に出ている部分は5分の1程度で、水中の部分は見事な造形美をなしている。冬になると海面が凍りつき、南極大陸の面積は2倍になる。生きものたちは海に出るために北上しなければならない。
南極の海中は豊かである。ジェントゥーペンギンが水中を泳いでいる。数百万ものペンギンやアザラシ、数千ものクジラが海に生息している。彼らの主食はナンキョクオキアミである。エビに似た6cmほどの動物で、夏には大増殖し、堆積にして地球上すべての人間と同程度である。
ザトウクジラは巨大な口でオキアミを食べる。夏になるとオキアミ目的でやってくる。彼らは共同で漁をする。まず、オキアミの群れの下に潜ってから、泡を噴き出して群れを囲い込む。泡のカーテンに囲まれてオキアミは1か所に集められ、一網打尽となる。40tものクジラは見事な水中バレエを演じている。
海鳥もやってくる。マダラフルマカモメはダイヴィングが苦手だが、数十cm潜って、クジラの食べ残したオキアミを漁る。3億6000万羽もの鳥たちが南極周辺の海で採餌する。南極海は波を遮る島がないため、波は成長を続け、世界一荒い海となる。
オキアミは普段は深い海にいるが、日中に海面近くまで上昇することがある。ペンギン以外の鳥の餌にもなる。マユグロアホウドリは2mしか潜れないが、ナンキョクオットセイは100m潜水し、水中で漁をする。
アホウドリにとって、シャチの食べ残したクジラの肉も貴重な食料となる。南極のハゲワシことミナミオオフルマカモメも争奪戦に加わる。羽の白い若鳥が、成鳥に闘いを挑んでいる。
最大の掃除屋はワタリアホウドリで、3000つがいがサウスジョージア島で繁殖する。親鳥は5000マイル離れたブラジル沖まで餌探しに行く。雛には口移しで与える。雛は体重10kgにも成長し、ハクチョウほどになり、海鳥の雛としては最大で、親鳥よりも重い。成育には10か月要し、零下10度の冬を越す。親鳥は3〜4日置きに餌を与える。短い夏にたくさんの餌を食べる。
キングペンギンもサウスジョージア島で繁殖し、周囲の海で餌を採る。200万羽が島に集まる。雛は好奇心が旺盛で、アッテンボロー氏を見ようと集まってくる。前年の夏に孵化し、ワタリアホウドリの雛と同様に冬を越す。親鳥は3週間ごとに戻る。5000羽もの雛がいるが、親鳥は声を頼りに見つけ出す。親鳥は雛を連れて歩き回る。3週間ごとに餌を与える。
キングペンギンにはいろいろな年齢の個体がおり、羽の生え変わったものから求愛行動するものまでいる。親鳥は氷河の溶けた小川を突っ切り、海に出て、波打ち際で水浴びをする。
サウスジョージア島の生きものは1年を通じて周囲の海で採餌しているが、氷で覆われている南極に生息している生きものもいる。

2.The Ice Retreats
  春の海辺は超満員

9月、南極大陸の周辺はまだ氷で覆われているが、サウスジョージア島はその範囲外にある。
ミナミゾウアザラシの雄が繁殖のために海岸にやってきて上陸する。体重3tにもなる雄は長い鼻を持ち、これからライヴァルと直面することになるのを知っている。
この島には、世界中のミナミゾウアザラシの半数が上陸し、この海岸だけでも2マイルにわたって8000頭がひしめいている。多くは雌で、1か月前に出産し、次の繁殖の準備が整っている。これらの雌はビーチマスターと呼ばれる1頭の雄のハーレムに属している。ビーチマスターの仕事は100頭もの雌と交尾し、ハーレムを乗っ取ろうとするライヴァルと闘うことである。3tもの巨体がぶつかりあう。ハーレムを維持するためには闘い続けなければならない。
ゾウアザラシの幼獣は母乳を集中的に飲んで、短期間で成長する。ビーチマスターはハーレムの雌との交尾で忙しいが、あぶれ雄も割り込んでくる。ビーチマスターはあぶれ雄めがけて突進する。威嚇の唸り声だけで、あぶれ雄は退散する。
何頭もの雄がぶつかりあうこともある。幼獣は踏み潰される危険にさらされている。唸り声で決着がつかなければ、犬歯で噛みつきあう。そのため、頸部の皮膚は分厚くなっている。闘争は15分続くこともある。
戦場を見下ろす草の生えた丘は平和である。マユグロアホウドリが着陸する。ハイガシラアホウドリは風を捉えて丘の上空を舞う。彼らは年間を通して海上で餌探ししているが、繁殖期には数千羽が地上で営巣する。つがいは羽繕いしあう。20年続くつがいもある。2週間後に産卵し、70日間抱卵する。崖から飛び降り、風に乗って飛び立つ。
ハイイロアホウドリは単独で行動する。まず雄が着陸する。雄は上空の雌に求愛し、雌は1羽の雄を選ぶ。2羽は羽繕い、ダンス、ディスプレイ飛翔を行なう。
夜になるとクジラドリやウミツバメがやってくる。2200万羽もの鳥がサウスジョージア島で営巣し、オオトウゾクカモメに襲われないように地下に巣穴を掘る。
ノドジロクロミズナギドリは砂地に巣を作る。雛が孵化すると、親鳥はイカやオキアミを与える。成長した雛は外洋へ旅立つ。
マカロニペンギンは8万羽ものルッカリーを形成する。島全体で1000万羽もの数になる。まず、雄が上陸し、2週間後に雌が来る。世界中のペンギンの50%に相当する。親鳥は繁殖なわばりを構え、侵入者に対して情け容赦ない嘴攻撃をかける。つがいは羽繕いし、10日後に卵を2個産むが、小さいほうの1個は捨てられる。これをサヤハシチドリが漁る。彼らはペンギンの糞も食べる。陸地をベースにする点で特異な存在である
より南には氷の世界が広がっている。夏になると海氷が溶け、南極半島が氷から解放される。
まず、ジェントゥーペンギンがやってくる。彼らは上陸し、雪で覆われた急斜面を登る。つがいが再会し、小石で作った巣に産卵するが、巣材を隣の巣から失敬したりもする。5週間後、雛が孵化する。卵は2個とも孵る。親鳥は急斜面を滑り降り、小魚やオキアミを捕りに行く。
ザトウクジラはオキアミ目的でやってくるが、パックアイスに遮られ、それ以上、南には進めない。
さらに南下すると、海面は流氷で覆われる。流氷の上には人間に次いで数の多い大型哺乳類であるカニクイアザラシが3000万頭もいる。名前に反してカニは食べず、オキアミを主食としている。歯を噛みあわせてオキアミを濾し取り、1日に20kgも食べる。
もっと南には年中、氷で覆われている場所がある。ここまで来るのはアデリーペンギンだけである。ここまで来るのはアデリーペンギンだけである。最も南で繁殖するペンギンで、氷の上を60マイル歩く。急ぐため、腹這いになって滑って行く。
ハトよりも小さいユキドリは、さらに大移動する。標高3000mの高さにある氷の上に突き出た、むきだしの岩に営巣する。氷で覆われていない場所は2%しかない。海岸から144kmもの内陸で繁殖する。夏でも零下30度である。雪の上で羽毛を洗い、黒い岩を背景に舞う。巣作りのため、1mも除雪作業することもある。
氷が溶けると、生きものたちの子育て競争が始まる。

3.The Race to Breed
  夏は短い 急げ子育て

短い夏、サウスジョージア島は活力に満ちている。数千頭ものナンキョクオットセイが島に集まってくる。11月に繁殖期がスタートし、まず大きな雄が上陸する。雄はアッテンボロー氏を威嚇している。攻撃的で、鋭い歯を持っているので、危険である。
続いて雌が上陸し、この浜辺だけで10万頭もの個体で埋めつくされる。雄は30平方mほどのなわばりを構えて12頭ほどの雌を抱え、なわばりの境界線で他の雄と闘う。12月までに世界中のナンキョクオットセイの95%がサウスジョージア頭に集まる。
雌は上陸後、出産する。ナンキョクオオトウゾクカモメが出産に立会い、後産に群がる。雌は出産後、1週間つきっきりで幼獣の世話をする。幼獣は母乳を飲み、生後60日で体重が2倍になる。8年後の闘争に備え、幼獣同士で喧嘩の真似事をしている。
波打ち際ではあぶれ雄がうろつき、ハーレムを乗っ取る機会を窺っている。1頭の若い雄が浜辺に突入するが、たちまち成獣の雄に攻撃され、海に逃げ戻る。1日に3〜4回はこうした騒動が起こる。取り囲まれて袋叩きにされる雄もいる。怪我や疲労で死ぬ雄もいる。母親が幼獣を避難させる。
クリスマスの南極は夏で、繁殖期の真っ盛りである。ヒゲペンギンはデセプション島に上陸し、20マイル移動する。白夜のため、太陽は24時間沈まない。10万頭が陸上を行進し、氷河の溶けた小川を流されそうになりつつも横切り、火山灰に覆われた岩山を登る。デセプション島の狭い場所に20万羽ものヒゲペンギンがひしめき、ルッカリーを形成する。信じられないことに、つがいはこの混雑の中から声で相手を探し出す。親鳥は雛に口移しで餌を与える。餌を捕るためには海に出なければならないが、危険も待ち受けている。
ヒョウアザラシはペンギンを襲い、1時間に6羽も捕らえる。深手を負ったヒゲペンギンに、ナンキョクオオトウゾクカモメが情け容赦なく襲いかかる。それでも岩山のルッカリーに戻ろうとするが、ついに力尽きてしまう。
夏になると、海氷は南極大陸の縁まで後退し、氷山の上でヒョウアザラシが穏やかな表情で日光浴している。水中での動作は巧みで、2頭がじゃれあっている。
陸上では、氷が溶けて淡水となり、大地を潤し、コケが育つ。氷の中に仮死状態で閉じ込められていたダニが活動し始める。このダニはマイナス30度でも体液が凍りつかないメカニズムを持っている。雑食性で、コケなどを食べる。これをトビムシが捕食し、セレンゲティさながらの弱肉強食の世界となる。
氷が溶けた淡水で池ができる。甲殻類が発生し、それをトビケラの幼虫が食べている。
岩の上には地衣類が育つ。非常にゆっくりと成長する。南極点から800マイルの地点は不毛である。北極圏の同じ緯度では顕花植物が見られるが、南極ではほとんど見られない。藻類が雪をピンク色に染めている。
氷山が浅い海底をゴリゴリと音を立てながら削っている。砕けた氷片に含まれる養分が、海中に溶け出す。
深い海底にはケヤリムシなどが生息し、南極の海とは思えないほど生命豊かである。生きものの成長はスローペースで、カイメンやヒトデの中には40年生きるものもいる。
魚もいる。ズグロムナジロヒメウが魚を捕らえ、コロニーを作って繁殖する。雛は裸で生まれるため、冷風に当たって死ぬこともある。この鳥は寿命が長く、生涯で多数の卵を孵す。
ナンキョクアジサシは甲殻類や小魚を食べる。雛にオキアミを与えている。悪天候やオオトウゾクカモメに雛をやられるので、短い夏に2、3回繁殖する。
さらに南の海面は、ハスの葉状の氷で覆われ、スカリオン・モノリスと呼ばれる岩山に30万羽ものナンキョクフルマカモメが営巣している。
アデリーペンギンもルッカリーまで泳いで到達する。親鳥は集団の中で雛を探す。雛は綿羽が取れかかっている。2羽の雛が親鳥を追う。強いほうの雛が先に餌をもらう。
ナンキョクオオトウゾクカモメがアデリーペンギンのコロニーを偵察し、親鳥の吐き出したオキアミを食べている。彼らはペンギンの雛も襲う。1羽の雛を数羽で攻撃しているが、親鳥に追い払われる。
オオトウゾクカモメよりも悪天候の脅威のほうが深刻である。海はまもなく凍り始める。長い冬の始まりである。

4.The Door Closes
  脱出!海が凍る前に

サウスジョージア島の海岸で、マカロニペンギンが荒れる波にもみくちゃにされながらも、上陸しようとしている。滑りやすい岩に、爪でしがみつく。
夏が終わり、秋になると、天候が悪化する。海が荒れ、気温も低下する。海が凍りつく前に生きものたちは脱出しなければならない。
ロイド岬では、アデリーペンギンが子育てに追われている。アデリーペンギンの雛は、換羽を終えている。2週間で海岸は寂しくなる。綿羽の帽子を頭に乗せた雛が海に出ようとする。海には浮氷が押し寄せている。親鳥が雛のもとに戻るため、浮氷の下を突破しようとするが、Uターンしてしまう。空腹の雛は海に飛び込み、親のもとへ行こうとするが、まだ動作がぎこちない。
ヒョウアザラシがアデリーペンギンの雛に襲いかかる。ネコがネズミを弄ぶように、雛を玩具にしている。20分後、雛は死ぬ。
ヒョウアザラシの食べ残しは海底に沈み、全長1mものNemetene Wormや体長10cmほどの甲殻類Giant Isopodが肉に引き寄せられる。Nemetene Wormは口から胃袋を出して肉を消化し、1日で骨だけになる。
初雪が降るころには、発育の遅れたアデリーペンギンの雛が取り残される。ペンギンの古いコートが風に吹かれている。
デセプション島では、ヒゲペンギンの雛が換羽を終えている。火山の斜面では雛がたたずんでいる。3週間で雛の体重は半分になる。3月の終わり、雛は海に出る。吹きすさぶ嵐の中、氷の混じっている波に弄ばれる。
海水は零下1.9度で凍り始める。海面はパンケーキ・アイスで覆われ、アイス・フラワーが生じる。ますます寒くなると海面は凍りつき、浮氷が海氷となる。海氷は1日2マイル広がる。サウスジョージア島は海氷の外にあり、凍りつくのは100年に1、2回ほどである。しかし南極の氷の影響を受け、標高2700mの山頂は氷河で覆われる。
零下10度の中、200万頭のナンキョクオットセイが子育てする。幼獣は4週間、母乳を飲むが、雄は3週間前に海に出て、海岸には雌と子どもが残っている。子どもは海で遊んでいる。
繁殖期の終わり、オットセイの幼獣の死骸がナンキョクオオトウゾクカモメやミナミオオフルマカモメにつつかれている。オオフルマカモメ同士が獲物をめぐって争っている。広げると2mにもなる翼で威嚇し、鉤型の嘴を武器に戦う。彼らはアフリカのハゲワシに相当するが、ハゲワシと異なり、死肉以外にも生きているペンギンの雛や小型の海鳥を捕食する。過日の捕鯨業者は、この鳥をGluttonsと呼んだが、Stinkersとも呼んだ(ミナミオオフルマカモメはいかつい鳥である。この鳥と並ぶと、ナンキョクオオトウゾクカモメが可愛らしく見える)。サウスジョージアオナガガモも死肉目当てに集まってくる。
泥の中で、ミナミゾウアザラシの雌がうごめいている。雌同士でも争っている。ペンギンと同じく、海に出る前に換毛する。
ハイガシラアホウドリもサウスジョージア島で繁殖する。島の周囲の海は凍りついていないので、餌を採ることができる。600マイルも餌探しに出ることもある。雛にイカを吐き出して与える。
ワタリアホウドリは翼開長3mにもなる最大の海鳥で、島の内部の草原で繁殖する。お見合いパーティーには海で3年修行した若鳥が参加し、つがいが決まるまで2〜3年かかる。若鳥は海に出る。
サウスジョージア島の周囲の海は凍りつかないが、気温は低下する。オキアミが捕れなくなり、海鳥の餌が減少する。4月、冬が始まる。
時速100マイルもの風が吹き、気温は零下70度に下がる。海は凍り始め、1日4万平方マイルも凍りつく。南極大陸の面積は2倍になる。
4月の終わり、生きものたちは北上を開始する。クジラは繁殖のため、温かい海へ移動する。アザラシ、アホウドリ、ペンギンも然りである。
1種だけ、逆に南下する生きものがいる。エンペラーペンギンである。身長1m、体重33kgになる最大のペンギンである。氷の上に上陸し、10マイル歩いてルッカリーに辿り着く。そして零下70度の雪嵐の中で子育てするのである。

5.The Big Freeze
  雪嵐に負けるな!

冬の南極大陸は気温が零下70度まで下がり、時速120マイルもの強風が吹き荒れる。大陸の中央部は暗闇に閉ざされ、海岸付近でようやく薄い光が差す。海面は凍りつき、大陸の面積は2倍になる。
多くの生きものは冬になると北へ去る。ここで越冬する種はごくわずかである。その一つであるウェッデルアザラシは南極点から800マイルの距離にある海氷に穴を開け、海中への入り口とする。この穴に多くの個体が集まっている。
ウェッデルアザラシに続いて海へ潜ってみる。海水は零下1.9度以下には下がらず、氷の上よりも安定している。海中は淡い光の差し込む、平和で美しい幻想的な世界が広がっている。
小魚が群がっている。南極の海の魚は体液が凍りつかないメカニズムを持っている。巨大なクラゲもいる。海氷の下は意外に豊かで、年間を通して嵐から守られている。多くの生きものは掃除屋で、ヒトデはアザラシの糞を食べている。
ウェッデルアザラシのあとについてさらに潜る。アザラシは水深750mまで潜水できる。暗闇の中で、キノコに似た巨大なカイメンが並んでいる。アザラシはようやく海面まで戻る。
10月、ウェッデルアザラシの雌は氷の上で出産する。幼獣は脂肪分に富んだ母乳を飲み、10日で体重が2倍に成長する。母親は幼獣に泳ぎ方を教える。
ウェッデルアザラシは歯で氷を齧って穴を広げる。歯が磨耗すると食事できなくなるため、寿命は20年と他種のアザラシの半分程度である。雄は氷の穴にハーレムを作る。分厚い毛皮と皮下脂肪のため、氷の上で雪嵐にさらされても平気である。幼獣は生後6週間までに95%が生き残る。
活火山であるエレバス山は巨大なクレーターを有し、バクテリアや藻類が増殖している。南極横断山脈は壮大な氷河で覆われている。その一角のドライヴァレーは岩がむき出しで、雪も雨も降らない。火星探検のテストにも使用されたことがある。岩石は乾燥した風にさらされている。海から70マイルの地点に3000年前に迷い込んだカニクイアザラシがミイラとなっている。岩石を割ると、地衣類が生存している。
南極点から200マイルの位置にある南極高原は標高3000mで荒涼としている。夏にはユキドリが繁殖するが、冬になると閑散となる。冬、ここにやってくる生きものはエンペラーペンギンだけである。
5月、他の生きものが北へ去るのと反対に、エンペラーペンギンが上陸し、南を目指す。2万5000羽ものルッカリーを形成する。
雌は氷の上に卵を産み落とし、雄がそれを受け取って保育嚢に入れる。すばやく受け渡さないと、2分で凍りついてしまう。雌は餌を採るため、海へ出かける。
エンペラーペンギンの雄は零下70度の雪嵐の中、集団で固まり、ときおり位置を変える。あたりは闇に包まれ、空にはオーロラが輝いている。雄は115日間、絶食して抱卵する。
海で餌を食べた雌が100マイル歩いてルッカリーまで戻ってくる。つがいは声で相手を識別し、3か月ぶjりに再会する。卵は孵化しており、雌は半分消化した魚を雛に与える。雄は雌に雛を渡すと、採餌のため海に向かう。
親からはぐれた雛を、子のない親鳥が抱え込むが、つがいの相手がいないため、育てることができない。数羽の成鳥が雛を奪いあい、雛が押しつぶされて死んでしまうこともある。多くの卵が孵らず、生まれた雛も最初の冬で25%が命を落とす。雛は短い夏に成長する。
初期の探検家たちはエンペラーペンギンの卵を欲しがった。鳥類と爬虫類の関係を実証する鍵を握っていると考えられたからである。1911年、スコット大佐の探検隊に属していた生物学者のビル・エバンズは、エレバス山の麓の調査でエンペラーペンギンの卵を採集した。この旅は、世界最悪の旅と呼ばれた。

6.Footstep in the Snow
  観測基地にズームイン!

ロス島のエヴァンズ岬には、スコット大佐の隊が1911年の冬を越した避難小屋がある。寒さのため、食料、装備、衣類などが今でも当時のままである。
1911年6月6日、スコットの43歳の誕生日が祝福され、長い冬への準備が行なわれた。地学、生物学、雪氷学、気象学などの実験装置が写真現像の暗室とともに残っている。
ノルウェーのアムンゼンも南極点を目指していた。1月17日、スコット隊が南極点に到達したとき、アムンゼン隊は34日前にノルウェー国旗を立てていた。帰路、スコットの一行は疲労と悪天候のために全滅した。避難小屋から100マイル、食料貯蔵地点からわずか11マイルの地点だった。
現在の防寒服は完璧であり、南極点まで航空機で直行できる。スコット隊が79日要した道程を3時間で踏破可能である。天候の好い日には4便出ることもある。
アムンゼン隊が全行程の橇の牽引にイヌを使ったのに対し、スコット隊は最初はイヌ、ポニーを使ったが、後に人間が直接橇を引いた。1人にかかる重量は90kgにも達した。南極点に翻るノルウェー国旗を見て、スコットは最悪の地だと記している。
80年後、南極店にはアムンゼン‐スコット基地が建てられている。巨大なドームは直径50m、高さ16mに達し、最悪の天候からも守られている。必要な物資はすべて飛行機で運び込まれる。
南極点は地球で最も空気が清潔で、気象観測に適している。観測用の巨大な風船が青空に吸い込まれる。
35マイルの距離にあるモーソン基地にはエンペラーペンギンのルッカリーがある。越冬隊はまる6か月間、他の人々と接しない生活を送る。昼も夜もない世界である。あらゆる仕事をこなす。イヌの世話は心が和む。コックはパン種と格闘する。火事などに備え、最低1年分の食料を離れた場所に保存する。
まる37日にも及ぶ闇の中、冬至の日は基地でパーティーが行なわれる。暗闇の空にオーロラが輝く。
太陽が再び姿を見せるとアデリーペンギンが現れる。モーソン基地ではペンギンの個体数と体重を自動的に計測する。数羽は捕獲してサイズを測り、スプレーで標識する。次の換羽で元通りになるはずである。
アムンゼン時代からイヌは有用だったが、近年では動物の持込が禁じられるようになったため、本国に戻されることになっている。イヌはクレバスを察知する良きパートナーであった。代わりに雪上車が活躍する。エンペラーペンギンのルッカリーまで、イヌ橇では2日の行程を雪上車では3時間で踏破する。
数人掛かりのタックルで捕獲されたエンペラーペンギンにスプレーで標識し、背中に発信機を着ける。彼らは100マイル行進し、魚を追って450m潜水するはずである。
100マイル北で繁殖するハイガシラアホウドリにも発信機を着ける。巣に似せた体重計で雛の体重を計測する。1日に500gのイカ、魚、ヤツメウナギ、オキアミを食べていることがわかる。
生物学者が着けた発信機のお陰で、アホウドリやペンギンの外洋での行動が判明し、撮影に役立った。ダイヴァーとリモートコントロール式のカメラでオキアミの撮影をしていると、2頭のザトウクジラが現れ、バブルネッティングを見せた。
Jerome Poncet船長は南極半島を調査して知り尽くしており、その協力で撮影隊の行動が可能となった。カメラティームは長い柄の着いた重量120kgのカメラでヒゲペンギンのルッカリーへ登り、驚異的な映像を捉えた。Paul Atkinsは体に固定したブレのないカメラで、ナンキョクオットセイの迫力ある映像を追った。
Mike Degruyは氷の穴に潜ってウェッデルアザラシの水中での映像を撮影した。氷のトンネルを20フィート進むと、アザラシの水中での声が聞こえた。Amal Ajmiは水中に沈めたカプセルに入って撮影し、アザラシの声をテープに録音した。
ヒョウアザラシやシャチに襲われないように、撮影隊は水中に沈めた檻に入って撮影した。体長4mものヒョウアザラシに追われたエンペラーペンギンが逃げ惑い、氷の上に避難するが、そこでも別のヒョウアザラシが待ち伏せしていた。
Peter ScoonesとDoug Allanは大胆にもヒョウアザラシと一緒に泳いでの撮影を試みた。水中でヒョウアザラシが現れ、カメラに噛みつこうとする。ペンギンを捕らえたアザラシが、ネズミを捕らえて飼い主に見せようとするネコのようにカメラの前に運んで来たりもした。南極の大自然の象徴である。
今では何百人もの科学者が季節を問わずに研究に没頭している。南極は国境なき大陸とされ、南極条約のため、地下資源は50年間、使用が禁じられ、次の世代に委ねられている。
南極は人類史以前の地球の姿をとどめ、今後もその姿を変えずに残すことを望まれている。

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