「(秘)色情めす市場」 感想文 text by るき乃

 冒頭安藤庄平カメラが通天閣のアップから、石壁に寄りかかる二人の女へ移り、その周辺の様子を捉えていく。そのぞくぞくするようなモノクロの映像は第一級品のもの。素晴らしい!!

 二人の女がうだるような暑さの中話しているのは、売春宿から独り立ちする、させないという話で、その様子を見ているだけで、主人公のトメの何とも言えない虚無感が伝わってくる、鮮やかなオープニング。

 この映画の舞台は大阪西成(別名あいりん地区)のドヤ街。この映画の撮影直前にはその頃頻繁に起こっていた暴動があったばかりという危険地帯。ここでロケするなんて、警察としては、「暴動が起こったら、どうするのか。そうなったら知らないよ」だったそう。今のオヤジ狩りなんかにあう浮浪者とは訳が違うぎらぎらした人々の様子がフィルムから窺えます。

 その為、スタッフも浮浪者に化けて、実際住んでる人たちを刺激しないように、隠し撮りしたとの事。そういう緊張感が画面から溢れんばかりになっているのか、見ているこちらまで緊張感に包まれてきます。

 出て来る俳優達もそのロケ地に負けないオーラを発しています。何と言っても、はすっぱでしらけているのに、何故か憎めないキャラクターのトメ(トメって・・・涙)を演じている(いや演じてはないのかも?)芹明香が圧倒的で、ぴったりはまってます。

 こんな町で売春婦をしている自分と母。そして知的障害者の弟サネオと暮らしているという酷い人生を送ってるのに、今の生活から抜け出したいという気もなく、でも自暴自棄という訳でもない、何事にも拘らず、淡々と生きている彼女の開き直っている生き方はある意味清々しいものも感じる。

 そのトメの母親に花柳幻舟。彼女はもう怪演というしかありません。自分の男と寝たトメに対して怒りを爆発させる所なんか、もうただ事じゃない空気が渦巻いてます。この母親にしてトメという娘が出来たんだろうなと納得させられる人物描写。

 そして知恵遅れのサネオを演じた夢村四郎。彼の演技には舌を巻きます。彼が言葉にならないうなり声を上げながら、トメの体をまさぐるシーンは実際の場面を隠し撮りしたんじゃないかと思うばかりのリアルさで迫ってきます。

 妊娠していた母親が流産した時、いつもは怒りの感情以外はあらわにしないトメが初めて涙を見せる場面には胸が突かれた。そして弟であるサネオに、「うちをどうにでもしたらええんや、うちはゴム人形なんやから」と好きにさせるトメ。

 と、モノクロに慣れた目に入ってくる真っ赤な太陽のアップ。おぉ!カラーになったわ〜!!

 そして、ニワトリにヒモをくくり付けたサネオが大阪の町を彷徨い、通天閣に登ります。一歩一歩階段を登って行くサネオの様子は何かに取り憑かれた様にも見えて、観ているこちらにまで、狂気にとらわれそう。そして、死んでしまうサネオ。

 それでも、また変わりなく毎日をたくましく生きていくトメ。彼女はこのまま何ものにも侵されず、ゆうゆうと漂って生きていくのでしょう。

 このメインストーリーとは別に文江(宮下順子)と斉藤(萩原朔美)の話が語られますが、彼らのシーンはちょっと毛色が違ってます。文江を大人のおもちゃ屋をやっている浅見(高橋明)(アレに真珠を入れてると豪語する男、苦笑)に横取りされる斉藤は、その代わりにと浅見からダッチワイフを渡されます。斉藤がダッチワイフを抱いて、文江と浅見に付きまとうシーンでは大爆笑。

 しかしその顛末は内容も撮影もかなりびっくりな事に。いやぁ、やろうと思えば 何でも出来るのね〜。凄いなぁ。

 田中登監督はロケを重視した監督の様で、この映画も脚本が西成なんだからと、 そこでの写真が絶対必要だという所は、譲れなかったらしい。その為、映画の中 で出て来るあらゆるシーンがやばい匂いで充満しています。

 そして、通天閣でのあの場所でのロケや、サネオが首を吊るシーンを撮った、立ち退きでなくなる寸前のゴーストタウン化している丼池商店街などのロケを行うまでの、あれやこれやの裏話は、気が遠くなるような足を使ってのロケ地探しと折衝の繰り返しです。

 監督や脚本家が情熱のありったけを注ぎ込んでいて、役者もそれに応えたら、こんなに素晴らしい作品が出来るんだなぁと感慨深い傑作でした。

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 田中登監督のデビュー作「花弁のしずく」のニュープリント化運動を有志で行ったものに私も一口乗せていただいたのを記念して、ニュープリントの初上映があった大阪十三、七藝での田中登特集に勇んで行ってきました。

 そのついでにトメの気分をちょっぴり味わうべく、あいりん地区ツアーも敢行してきましたが、今はこの映画の時とは様変わりしていて、若い女の子がぞろぞろ歩いていたり、外国人宿泊客で賑わっていて、明るい町並みへと変貌を遂げている最中。

 西成労働センターあたりだけは、かろうじて、その片鱗が残っていましたが、今の中高生の援助交際ブームの中では、トメの様な生き方は化石の様な物なのかもしれないなぁと感慨深く思いました。